ウィルソン病は、体内に銅が蓄積することで脳や肝臓、腎臓や眼球などが侵される病気です。
遺伝性の疾患であり、保因者4万人~9万人中に1人の割合で発症するそうです。その症状は多彩ですが、主に肝臓障害型・眼科障害型・脳障害型の3つに分類されます。
ここでは、ウィルソン病の基本知識についてを中心にお伝えしていきます。
目次
【遺伝性の代謝疾患 ウィルソン病とは】
(1)体内での銅の代謝について
ウィルソン病は、体内に銅が蓄積することで脳や肝臓、腎臓、眼球が侵される病気です。
「銅」というと、10円玉の素材等で使われているのを思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。
実は銅は、私たちの身体を作る微量原子の一つで、必須栄養素でもあります。
食べ物の中でも、豆類や、ゴマ・アーモンドなどの種実類、そして甲殻類や動物のレバーに多く含まれています。
普段私たちは、上記のようなものを食べることで銅を取り入れ、十二指腸や小腸上部で吸収させた後、更に代謝を行うため肝臓に運びます。
肝臓で、銅はセルロプラスミン(銅結合たんぱく質)という物質に変えられ、血液中から全身の諸臓器に必要な量を頒布していきます。
もし過剰な分があった場合は、肝臓から胆汁中に捨てられ、やがて体外に出されます。
以上のように銅は、私たちの身体の中で、代謝・吸収・排出のバランスを摂りながら使われています。
しかしウィルソン病の方たちの体内では、肝臓での銅の代謝が阻害されてしまっているのです。
(2)銅の代謝を阻害するATP78遺伝子の異常
ウィルソン病を発症した方たちの体内では、肝臓に運ばれた銅をセルロプラスミンに変えることが出来ません。
銅を胆汁に運ぶことも出来ないため、体外への排出も行われず、どんどん肝臓に蓄積してしまいます。
やがて蓄積限界量を超した銅は、肝臓から溢れ、血流に乗って腎臓や脳、角膜へ辿り着いた後、そこであらゆる症状を起こします。
この様な、銅の輸送・代謝・排泄障害を引き起こすのは、ウィルソン病患者の保有するATP遺伝子の異常に原因があると考えられています。
日本では1500人程、このATP遺伝子に異常を持つ人たちがおり、この内で発症までに至っているのは100~150人程だと推測されています。
稀に、遺伝子の突然変異で発症する方もいるそうですが、その確立は約30パーセント前後だと考えられています。
遺伝子性疾患であるということは、両親から子供へと病の原因が引き継がれていく可能性もあります。
しかし、ウィルソン病は早期発見・治療によって社会復帰や、そもそも発症を予防することが出来るそうです。
早期発見をするには、
- 家庭内での遺伝子検査
- 血液検査で血中の銅・セルロプラスミン量を確認する
- 尿検査で銅の排泄増加がないか確認する
など、医師の診察や検査なども、視野に入れる必要があると考えられるのではないでしょうか。
発病と多彩な症状 ウィルソン病の症状とは
(1)ウィルソン病の発病発見
ウィルソン病発症が発見されるのは、患者が大体3~15歳程の頃が多いそうです。
発症が発覚する一番の原因は、主に肝臓障害です。
子供の白目やヒフに黄疸(ヒフが黄色くなる)が出たり、異常な倦怠感や疲れやすくなったこと、また無気力状態や集中力の低下に保護者が気付き、
診察を受けて発覚するケースが、良く知られています。
(2)ウィルソン病の症状
症状は多岐にわたりますが、主に肝臓障害・眼科障害・脳障害の3つに分類されます。
・肝臓障害…銅の蓄積した肝臓にダメージが溜まり、機能障害が起きる。
・眼科障害…主に角膜に銅が蓄積することにより、黄疸が出る。
黒目の周りに黒褐色のリング状を作る、カイザー・フライシャー角膜輪という症状が出る事も多い。
・脳障害…思春期頃から見られる。
初めは呂律が回らない・手指が震える症状が出、後々になると手足の強い震え、筋肉の硬直が起こり歩行が困難になる。
また、記憶や計算能力が低下し、鬱状態や統合失調症などの精神的疾患を起こすこともある。
【発症前の予防法と治療法】
ウィルソン病は、遺伝子に異常を持っていても、発症する前なら日常生活を行うことが出来ます。
その際は、きちんと医師の診察を定期的に受け、以下のような予防・治療法を実践することが大事です。
(1)銅排出剤を飲む
銅キレート剤とも呼ばれる、体外への排出を促す薬を服用します。
キャリアを持っている方は、医師の管理の下、これを一生に渡って飲み続けることが必要になります。
その為、薬の副作用が出ない様に亜鉛製剤のものを調剤する医師も少なくないようです。
日本では2008年1月に、酢酸亜鉛と呼ばれるものが治療薬として認定されたそうです。
(2)低銅食を食べる
食事による銅の摂取を抑えるためです。
貝や甲殻類、レバー・豆類・穀物類などを、許容量以外出来るだけ摂らないスタイルの食事が勧められています。